これほど衝撃を受けた本は久しぶりである。
藤田紘一郎は東京医科歯科大学の名誉教授で専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。
寄生虫学と聞いて思い浮かべるのものとしてあげられるのはサナダムシではないだろうか。
そんなサナダムシを体の中に宿し、さらには愛情を捧げニックネームまでつける人は日本にどれほどいるだろうか?
サナダムシことキヨミちゃんを飼っているのが藤田紘一郎なのだ。
私がこよなく愛しているサナダムシは腹側神経系動物の中で初めて中枢神経細胞を持った生物です。
内容
本書『脳はバカ、腸はかしこい』ではタイトルの通りでいかに脳がだらしなくそしてどれほど腸が優秀なのかを問いている。
腸内環境を良くすることで脳も良くなるのだ。
たらふく食べて、セックスして、野に出て運動して、おしゃべりして・・・これで脳の報酬系は満足してしまいます。このように脳はうわべだけの満足ばかり求めて、意志薄弱でうぬぼれも強いのです。常に真実をねじ曲げ、偏見まみれなのです。ところが腸は反対に意志が強固です。だましたり、だまされたり、勘違いなどしません。
なぜここまで腸にこだわるのかというと
実は脳よりも腸の方が生物として長い付き合いになるからである。
脳がデキたのは生物にとってずいぶん最近の話なのです。地球上で最初に生物が生まれたのは約40億年前でした。生物にははじめに腸ができ、脳を獲得したのは現在から5億年くらい前のことです。つまり生物の歴史上、8〜9割の期間は生物は脳を持っていなかったのです。
脳よりも腸が先にできるとは驚きである。
本書を読み進めていくとさらに腸の働きに感心してしまう。
どうやら幸せ物質として有名なセロトニンが90%も腸に存在しているようなのだ。
セロトニンは卵や魚、乳製品などに含まれているトリプトファンという必須アミノ酸を原料に腸内でビタミン類の力を借りて合成しています。
このセロトニンは腸内に危険な物質が入ってくると活動することで、脳にこの危険物質を吐き出せと司令を出したり、下痢を引き起こさせたりする。
例えば、その危険物質が食べ物だったとしよう。
その食べ物が危険かどうは脳には判断できない。脳は報酬系によってバカになっているため危険物質ですら体内に入れようとする。
脳は異常アラートを発せず、私たちに何も知らせてくれない。
一方で腸はその危険物質が食中毒菌を持っていたらすぐさま私たちの体に異常を訴えてくる。
こんなに素晴らしい腸であるが、意識しておかなればならないことがある。
それは腸内細菌のバランスが取れているかどうかである。
「腸内細菌など気にしたことがない」わたしも含めてほとんどが同じことを考えるのではないだろうか。
どうやって腸内細菌をバランスよく整えることができるのか?
その秘密はミミズとうんこであった。
私がミミズに興味を持ったのは、ミミズが素晴らしい腸内細菌を腸の中に飼っているからです。ミミズは世界中の痩せた土地を生物が生きるための肥沃な土地に変えているわけですが、それを行っているのはミミズの腸の中に棲む腸内細菌なのです。
腸の中に棲む腸内細菌が土地を蘇らせる。つまり、ミミズのうんこが土地を蘇らせているのです。
ところで、世界が最も必要としているウンコは何だと思いますか。それはミミズのウンコです。(中略)
そのウンコの中には数えきれないほどの腸内細菌がいて、土壌中のあらゆる有害物質を処理して、有益なものに変えているのです。
こんなにも素晴らしいミミズの力を人間の体に取り入れるとどうなるのか?
中国の研究によるとアソコの血流が大幅に増幅したり、アメリカでは肥満が改善したり
カナダではうつ病などの精神疾患や腸疾患が治癒していった報告があがっている。
ミミズを直接食べるのは正直ためらう。ただ、ミミズの腸内細菌に似たカプセルが販売しているようで「土壌菌カプセル」と言うそうだ。
余談であるが、ミミズのセックスは光悦感に満ち溢れているそうだ。能がないにも拘らずだ。
感想
脳には多くの謎がまだまだ多くある。一方で、腸の謎という言葉あまり聞かないし、話題にすらならない。
実は脳の謎解明へのヒントは腸にあるのではないか?
腸からの神経伝達物質が脳に届くということは脳の仕組みも腸との連携がうまくいくように最適化されているはずだ。
臓器単独でしか自分の体を分析してこなかったが、臓器のつながりを一層感じさせる1冊であった。
また、その臓器とミミズなどの人以外の生物とつなげているのも大変面白かった。
まさか、うんことセックスの話が腸と脳の本で出てくると思わなかった。
オススメ読者
特定の読者というものは存在しないだろう。誰でも手にとって笑いながら読むのもよし、真面目に頷きながら読むのも良しだ。
マエ☆コウ